効率を求めない授業

FDというタームが一般化し、教授法をめぐる議論が活発になりました。僕自身も日本フランス語教育学会に所属しており、教育についていろいろと考えています。

その中で、あえて「雑談」というトピックに焦点を当てたラウンドテーブルを行いました。「雑談」は当然ながら「ノイズ」として忌避されるものです。また昨今は「学生が雑談を好まない」という風潮にあるらしく、ますます雑談は旗色が悪いです。

そうなってくると「雑談」を成功させると「一人勝ち」の状況が生まれる、ということになります。

僕自身は「授業に関係ない雑談」を含め、授業外コンテンツの提示がとても意義深いと思っています。授業の内と外をスパイラルに往還することは極めて重要です。

例を挙げます。

学生に「街中で「フランス」に関係したものの写真を撮ってくる」という課題を出しました。その中で「シュークリーム」「エクレア」を撮影した学生がいます。他の学生に対して「エクレアがフランスのものだと知っていますか?」と聞くと、ほぼ全員が沈黙です。

エクレアとフランス、クロワッサンとフランス、カフェオレとフランス……このようなことを学ぶ機会がないのです。厳密に言うと「フランス」を知らないのではなく、「見えているのに見ていない」という現象が生じています。

さらに言うと、大真面目に「カフェラテ」「カプチーノ」の写真を持ってきた学生がいました。「ホットドック」の写真もあります。これを「フランスに関係する写真」として持ってきたわけです。ということは「カフェラテ」「カプチーノ」「ホットドック」の文化を知らないことを意味します。フランスのカフェが舞台のレッスンをこなした後だったので、「コーヒーならフランス」「パンならフランス」という発想なのでしょう。そこに疑問が芽生えなかったということです。

おそらくフランス大統領の名前を知らない学生は少なくないでしょう。そもそもフランスの「イメージ」が共有されていないのです。

授業内コンテンツに集中し、効率よく教える教授法を否定するつもりはありません。僕が言いたいのは、そのような教授法では汲み尽くせない問題がある、ということです。それであれば、授業外コンテンツとの結びつけを可能とする「雑談授業」が解決法の一つとして意味を帯びてきます。

昨今は「学生と必要以上に近づかない」という文化、SNSやLINEの交流に気を遣う文化も根付いてきました。ここも「逆を行くチャンス」です。研究室をオープンにして学生の来訪が絶えない状況を作り出し、エクスカーションと銘打って積極的に出かけ、定期的に打ち上げ(飲み会)を開催する「非ゼミ教員」はそうそういないでしょう。昨今の風潮を逆手に取り、「洗練」の逆を行こうと思います。