真の実用性とは

お笑いを注意深く分析していると面白いことがいろいろあります。時事への関心、緊張と緩和、ワードセンスなど。プロ技に見えますが、元をただすと社会で必要とされる能力でもあります。お笑い芸人の人が新たなビジネスを成功させる例を目にすることが増えましたが、仕事そのものが社会性に繋がっていることに要因がありそうです。

このように「専門」の中に潜む汎用性こそがジェネリックスキルの肝なのだと考えています。

職業教育・実用性といった言葉がいろいろなところで囁かれていますが、重要なのは「どういった世界でも転用可能」な能力を養うことでしょう。「仏文」よりも「レジ打ち」の方が実用的でしょうが、レジ打ちをほかの職業に転用することはなかなか難しいです。

以前「プルーストで社会性を鍛える」というワークショップをプルースト業界で説明したところ、「プルーストのように社会性がない作家を通じてですか?」と問い直されたことがありました。作家個人に焦点を当てると社会性が見出せない例は多いです。しかしここでも解決策はプルーストです。『サント=ブーヴに反して』における知性批判を踏まえると、作家という人間の日常を構成する要素は「表面的」とみなされる態度が見て取れます。作家にとって重要なのはあくまで作品であり、それを作るのは「魂の深淵」なのです。表面的なキャラクターが問題とならないほど深い部分にこそ、傑作を生む要因が潜むのです。

「実用性」というものを考えるときに、「実用性っぽく見える表面」に惑わされるのは危険かもしれません。実用性が疑わしいとされる学問分野の深淵にこそ実用性に至る道が潜んでいるように思えます。