脱オンリーワンディシプリン市場主義

我々フランス語系に限ったことではないかもしれませんが、「一つのディシプリンに軸足を置くこと」を「是」とする論調は根強く残っています。僕であれば「フランス文学研究に専念すること」が「是」です。そのためには日本フランス語フランス文学会で発表を行い、論文を投稿し、日本プルースト研究会で発表することなどが称揚されます。その方面で本を出すことなども求められるかもしれません。

少なくない研究者が、就職を機に「文学研究」からフィールドを移します。映画研究に乗り出す人も少なくありません。そんな人に対して「映画研究の方が楽」「文学研究から逃げた」などと言っている人を目にしたことがあります。まるで意味がわかりませんでした。

人のことはどうでもいいので、仏文に集中したい方はそうすればいいと思います。ただし「どういう条件の中で仏文に集中するか」ということは考えた方がいいと思います。

僕の場合、日々の担当授業が「フランス語」「国際化と異文化理解」「基礎ゼミ」です。担当科目にフランス文学は存在しません。

フランス語の担当をしているから、日本フランス語教育学会で実践報告をすることはおかしいことでしょうか?
国際化と異文化理解という授業を担当しているので、日本国際文化学会に論文を出すことはおかしいことでしょうか?
基礎ゼミを担当しているので、大学教育研究フォーラムでポスター発表をすることはおかしいことでしょうか?

何一つおかしくはないのです。

さらに言うとキャリア支援委員会に入ったのでキャリア教育を勉強することは正しいことでしょう。
FD委員委員会なので学外のFDに足繁く通うことも正しいはずです。

我々語学教員だけではなく、自分の専門と異なるものを大学で教えている人は少なくないと思います。専門研究をやめる必要はありませんが、自分の現状に合わせた専門を模索することは間違ったことではありません。僕が仏文を研究しなければならないとしたら、「元々フランス文学だから」という以上の理由はないのです。別に辞めるつもりはありませんが、「仏文だけ」を研究する態度は現在の僕のライフスタイルにとことん馴染みません。

いい加減、ディシプリンの魔の手から逃れた方がいいでしょう。ディシプリンを尊重することは重要ですが、そこに縛られる必要はありません。ちなみにディシプリンに縛られない僕は、法学部の講義で本来の専門のプルーストを15週ブチ抜いています。ディシプリン以外の知見がこの暴挙を可能としてくれるのです。